fumimaro40’s diary

fumimaroはふつうの事務員。感じたままを。

出逢う②

「良く来たわねぇ」と奥から和装のゴッドマザーが現れた。まぁお上がりなさい、と言う彼女の年齢が全くつかめず、考えているうちに緊張するのを忘れたようだった。通された部屋には、十数人の大人たちがずらりと座っていたのだ。正座をした皆の目が一斉にこちらを向き、何人かとは目が合った。その、ずらりの向かいに座れと促されたので、持ち物を部屋の外に置いてから膝を折った。そうだ、職員室に入る時は、鞄やコートを廊下に置いて入るのと同じ感覚だった。

ゴッドマザーは、いっぷくおあがんなさい、とお茶を立て始めた。お茶は一杯ではなく、いっぷくと数えるんだなぁ、なんて感心しながら、私はまた間違えた、と可笑しくなってしまった。華道教室ではなく、茶道教室だったのね。この際お茶でもいいかな、という思いは少しは頭をかすめたが、今まさに痺れている足に嘘はつけなかった。

お茶のいただき方を知らず戸惑っていると、ずらりの1人が、まずはお菓子をいただきましょうね、と菓子鉢を目の前に置いてくれた。ひと口に入りそうな小ぶりの上生菓子に目を奪われる。知っている大きさと明らかに違う。親のおかげで、小さい頃からデパ地下のブランド和菓子を食したことはあるけど、こんなにも小さいなんて。まさに、お上品。こしあんが薄っすら透けて、桃色の求肥に包まれ茶巾に絞られている。どんなに小さくてもくろもじで、更に割っていただくのがお作法というものだろうか。だって本当に小さいんだもの、私は思い切ってそのまま口に放り込んだ。「あら、美味しそうに食べるじゃない」ゴッドマザーは私の不作法をホロウしながらお抹茶を差し出す。肉厚な赤い茶碗を思わず手に取り、キレイとつぶやいてしまった。

「お茶は美味しくいただくのがいちばんなのよ」

ゴッドマザーの、その優しく格好いい言葉は、絶対に忘れない。